『ラブアンドピース現代語訳』全曲解説
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ALL作詞作曲解説 & Vocal & A.Gt. or E.Gt & Chorus.:斉藤めい
Recorded & Mixed:三木肇
Mastering Engineer:石井敏治
1・不労所得
Dr. 前川和彦、Ba. 木原潤、E.Gt. 内田心晴、Pf. 黒田玲兎、Oboe. Takashi、E.Violin. RURI、Triangle. キタヤマトライアングル、Perc. プニ夫
消費税も上がる2019年10月。同じ時期に発売したアルバムの1曲目がこの曲なのは、
『お金はとても大事で必要で、そして何のためにあるのか。ただ倣っていたくない、向き合って、一番よいことに使いたい』という再確認に、丁度良かったのかもしれません。
生きていくのにとても大事なのに、話す事をタブーにされてしまう「お金」というものを、もっとちゃんと分かりたい。それが私達の生きる世界をもっと知ることなんじゃないのか。
でも、そればっか考えてたら疲れますよね。だから時には全部ふっとばして大きなものに身を委ねてもいたい。そうそれは宇宙。冒頭のトライアングル、そしてバイオリン、エレキギターと続く音はぶつかりあって反響しあう、まさに「宇宙」。
とにかく一つ一つの音が好き勝手やってるカオスを表したくて、9つの楽器を入れることにしました。お互いの音がどうバランスをとるのか、楽器陣&エンジニアをかなり悩ませたと思うけど、一人一人の感性により想定よりも大きなものになったと思っていて、だから私ですべて完結する音楽より、誰かと創るものが面白いと思っています。演奏してくれた音楽家達と関われた事が誇りです。間奏の各々のソロも必聴。ただ、ライブで再現できるかは不明……。
斉藤めい1stワンマンライブで演奏してくれた前ちゃん・木原さんの「陽」のリズムがどうしても必要でもあったので、そこからスタートしました。前ちゃんは音楽から離れ社長業やってるとこに大変お邪魔しましたが、本当にありがとう。
2・スプーン
Ba. 工藤哲也、Dr. 岡山たくと、E.Gt. 小池"wanny"孝典
Chorus. 二宮友和,金子TKO,Table(ナカムラ、明日香)
ナイフで刺しあう世界は終わりだ。スプーンですくいあおうぜ。ナイフもスプーンも自分の心に両方持っている道具であって、生き延びるためにナイフが必要な時代もあったでしょう。でも今(2019年前後)は絶対的に「スプーン」が必要だ。
というのが、「現代のラブアンドピース」と私がいつも言ってることの原点です。このアルバムの、そして斉藤めいの中心にある心です。核。
明るくて正確なビートが絶対必要だった。アルバムで最初に録ったのが たくと君と工藤テッキンさんのドラムとベースで、二人のリズムがとても楽しくてワクワクして、アルバムの方向自体がこれで間違ってないなと手ごたえを掴めたのも大きな希望だった。
その上に、ワニー氏の最高にファンキーなギターが乗って、もともと楽曲が持ってたパンクさを取り零さずに済んだのは本当に幸運だった。
清濁併せ呑んできたであろう先輩方の贅沢な『ラブアンドピース』コーラスで「愛と平和」の説得力も増した。
音楽を始めたばかりのとき、私は尖った曲ばかり歌っていた。メンヘラ(精神を病んでる)だとも、よく言われていた。私がライブをやっていた弾き語りの界隈も、「尖り」がブームみたいだった。ただそこから、本来の自分に立ち返ってみたら、本当は自分は結構前向きで、明るい人間なんじゃないかと思い出した。この先を考えたときに光が欲しくて、この曲を作った。そうして今の私がいる。
ライブで「ラーブアンドピース」って歌いたい、みんなで。
3・もじゃもじゃ
2RPM(E.Gt. tsurumi、E.Violin. RURI、Dr. プニ夫、Ba. MASA)
Chorus. 藤井めぐみ
4年前、地元埼玉のライブハウスを巡ろうと滋野有紀子ちゃんとツアーしてて、越谷のmojomoja、という場所で歌った。
共演はゆっちゃん一人、お客さんも一人。あとライブハウスの人しかいない、そんな中で。
出来たばかりで名前のついてない曲に、そのライブハウスの名前をもとに、私の頭の中もまとまらずにモジャ~としてるしなあ、なんて思って『もじゃもじゃ』とつけた。
いつのまにか、自分にとってもバンドにとっても誰かにとっても大事な曲になってた。
レコーディングも終盤、RURIのバイオリンを録ってるときになんか感極まって号泣したのは秘密。
「自分を肯定すること」の大事さが知れ渡ってきた昨今、まぁいろいろあるけれども、何者かになることもなく、自信なんかもないままで、それでも「いつも私は私です」と言えたらいいね、という曲です。
人間を肯定し愛することの天才・藤井めぐみさんのコーラスが入り、より、寄り添うやさしい曲になってくれた。
4・時代おくれ
Ba. 二宮友和、E.Gt. 金子TKO、Dr. 森貴寛、Chorus. 滋野有紀子
アルバムで唯一、ギター・ベース・ドラムを一発録り(同時録音)。
二宮さんと、二宮さんをリスペクトしつつも同じ「どんなに時代が変わっても 変わらない心を持つ」ボーイズ、金子氏&森君の演奏で、きっとこの曲が持つ景色を最大限に表わせられるだろう、と目論んでのオファー。
わりかしそうやって人間性から人選しがちなのだけど、期待以上のところに私自身が連れて行かれた録音になりました。決して多くはない音の数なのに、どこまでもいけそうな渦がグアアー!っと生まれて、『ああ、これがグルーヴってやつなんだなあ』と、ミュージシャン5年目で本当にわかった気がしました私。
正直言って、DTMの曲が溢れてシティポップが流行る世の中に、新参の私がバリバリバンドで、ロックでもあるアルバムを作ることに「時代遅れなんじゃないか」って迷いはほんの少しだけありました。でも、この1曲で、このアルバムも、私の中で鳴ってる音楽も、全ては肯定されたんです。
きれいな嘘も美しいけど、私はあなたの本当が好きです。
5・スーパーヒーロー
E.Gt. 内田心晴、Ba. MASA、Dr. 森貴寛、Synth. 三木肇
悪いところ、弱いところ、汚いところ。すべてを知った上で、それでも美しさと優しさを諦めないこと、そのこと自体が私を救う心のヒーローだろう。
録音で最後まで難航した曲ではあります。
キモでもあるアコギのフレーズは弾き語り演奏時と変わらずそのままに。Aメロは無機質、サビは熱情のイメージだったので、淡々とした打ち込み音を三木さんに作成してもらい、サビでは森君にタイトめで尖ったドラムを叩いてもらってから、しばらく寝かせ。
紆余曲折あって、やっぱり2RPMバンドメンバーのMASAだ、とベースをお願いしたら、リッケンバッカーをいつもより歪ませた音にして、メロディーが行きたい一番気持ちのいい場所を逃さず掴んでくれたので。あとは、透き通る冷たい景色と、燃え上がる情熱、両方を弾けるのはもう心晴君しかいない、と急遽ギターを頼みました。
シンプルな分、一つ一つの音が主役でいて欲しくてミックス作業は注意しました。
難産だった分、丸裸から完成になるまでで大きく生まれ変わった曲です。
6・生物の授業
2RPM(E.Gt. tsurumi、E.Violin. RURI、Dr. プニ夫、Ba. MASA)
あからさまな90年代ギターロックリスペクトであり、そして生物上、女に生まれた生き物から、男たちという生物へ捧ぐ歌。
″ラブアンドピースを謡ってるから「怒り」とか負の感情は出しちゃいけない″なんてことは全然ないと思っていて、適切に怒ったり負の感情を出すことは、むしろ心の平和の為に必要です。
でも怖がることなく、男性陣。この曲を作り、わざわざ歌っていることこそが、最大の愛でしかないです。心して受け止めて。
私が言ったわけでもないけど、間奏のギターとバイオリンが「男と女」をそのまま表していて、ニヤリとする。
このアルバムで、バンドメンバーである2RPM以外にもたくさんのミュージシャンを招いたので、メンバーには不義理しちまったなぁという思いも少なからずあるけれど、間違いなく、この土くさくて清々しいロック感は2RPMの5人だから出せるのです。
7・この空が晴れたら
2RPM(E.Gt.&Chorus. tsurumi、E.Violin. RURI、Dr. プニ夫、Ba.&Chorus. MASA)
Hand clap.三木肇&斉藤めい
いくつかの要素が繋がりあって出来た曲。
子どもから少女へ、大人になった自分。ピアノマン・リクオさんがライブMCで語った「忌野清志郎氏の夢の話」。悲しい記憶と、会いたい人に会いに行ける現在。あと人生のストーリーというものがあるならと、アニメソングの疾走感。
2RPMバンドは、MASAの芯、tsurumiの歌うロックギター、プニ夫の母性(男だけど)という基盤に、RURIのバイオリンが縫うように、時に包むように入り込んで広がりをつくっているのが個性だと思っている。
初めてこの曲をジャーン!と合わせたとき、いつになく一回で「うん、こんな感じでいいね」としっくり来た。歌詞の通り、血の繋がらない家族ができるから もう泣くなよ自分ってことなのかな、と思った。
ちなみに斉藤は格安航空ではなく、高速バスに乗ってるときによくこの曲が頭の中でかかります。
8・こんなもんじゃない そうじゃない
2RPM(E.Gt.&Chorus. tsurumi、E.Violin. RURI、Dr. プニ夫、Ba. MASA)
「めいちゃんの曲は万人受けしないかもしれないけど……」そんな事を言われたときや、己に対して悲壮感を漂わせている仲間を見たとき。
決めつけてしまうなよ、と思っている。私のことも、あなたのことも。人間の心なんて、自分の心も、相手の心も、どこでどんな風に動くのかわからないんだから。想像もしない形で、思いや願いは届くかもしれないんだから。と、私自身は何も諦めちゃいないので「こんなもんじゃないよ、私もあなたも」って歌うのです。
ライブではプニ夫のドラムと私のエレキギターだけになるところが、とても楽しくて好き。
Cメロは脳内のイメージを言葉にできなくてメンバーと苦辛したけど、結果、心の奥に潜る感じになりとても良かった。「服を着たまま裸で踊ろう」というフレーズも気に入ってるのでTシャツにもした。
初めて斉藤めいを聴いて、この曲が好きだと言ってくれる人が多いので「やっぱりみんな諦めてないんじゃないか!希望!」と思っている。
ちなみに鈴木雅之氏「違う、そうじゃない」と、真島ひろ氏「こんなもんじゃない」という楽曲の件は、作成後に知りました、まじで、でもリスペクト。
9・分かりあう
Dr. 前川和彦、Ba. 木原潤、E.Gt. 内田心晴、Key. 黒田玲兎
「分かりあうなんて所詮無理なんだよ」と悲しそうに言った、傷ついたやさしいあの人の言葉が元になっている。
斉藤の書く歌詞は『私』も『あなた』も明確に分かれていないので、私があなたであなたが私で君になったりします。
当初10曲入りだったアルバムに、どうしても入れたいと急遽録音することになった11曲目の楽曲。激しい曲たちの後で、どうかやさしく響いてくれたらと最後までミックス作業でねばりました。
前ちゃん、木原さん、心晴君、玲兎君というメンバーは『不労所得』と同じだけど、また全然違う面をみせてくれた。弾き語りでも大事に歌ってる曲だけど、誰かとも演奏したかった。一人の良さと、誰かがいる良さはまた違う。
アウトロのギターと、オルガンの音色が優しくて美しくて心底好きです。
なお、エンジニアの三木さんがこのアルバムで1番好きな曲だそう。
10・天国
Pf. 黒田玲兎、Oboe. Takashi、E.Violin. RURI、Dr. 岡山たくと
現代社会への、アンサーソング。
生産性がないもの、マイノリティなもの。弱いもの、弱い部分はいらないと、見ないことにしたら、そこは一見きれいな世界。でも中身はきっと地獄でしょう。すべての存在が大丈夫になれば、この地上こそが天国。
なお分かる人には現代版・中島らも氏とすぐバレる。そうだよ、いいんだぜって言いたかっただけなんだ。
天国だけども地上に片足はしっかり残しておきたいなと、ベースレスでも堪えうるリズムはたくと君にお願い。パーカッションやウィンド・チャイムを入れるアイディアも出してくれる信頼性。
玲兎君のピアノをメインにすえながら、オーボエとバイオリンは重なり続けて上へ上へと上昇、天に昇っていくみたいで、この2つの音の引き合わせは天国に届いてるなと思う。
ボーカル入れを1番最初に行ったので、録音が終わる頃には半年前の歌声になっており、録り直そうかとも考えました。でも、綺麗事として響いて欲しくない歌だからこそ、最初の荒々しさを残すことを選びました。
11・爆弾
2RPM(E.Gt.&Chorus. tsurumi、E.Violin. RURI、Dr. プニ夫、Ba. MASA)
アルバムの中で最も初期の頃の曲。
2015年ver.はソロ(外注)で録音。みんなの演奏とコーラスとバイオリンが入った、これが最新ver。
歌詞は、斉藤にありがちな「たくさんの事例を並べて、あとから全部ひっくり返す作戦」の初めの1曲目。
私はよく「破壊」「壊す」が似合うと言われました。また、再生のために破壊が必要なんだから、という言葉もよく聞きました。
でも、誰かの大事なものは、破壊せずにすんだ方がいいに決まってる。新たな再生のためにすべて破壊してしまえ、なんて思わない。そんなの墓の主かよナウシカの。…正直レコーディング時はそう思っていたので、「壊せ」と歌う曲は今の私には合わないのでは?と思い、外そうともしました。
だけど私が壊したいものはいつだって、誰かではなく自分の中にあって、この爆弾は、造り上げたものを全部壊しちまえよって訳ではなく、生きていれば常に移り変わるもの、皮膚がはがれて新しくなるみたいに、当たり前に生まれ変わるものの手助けをする「やさしいもの」を最初から歌ってるわけで、何も今の自分と矛盾しないな。昔も今も形が違うだけで本質は何も変わらないな。そう思うに至りました。
最後の曲です。そして、はい、もう一度最初から。だけど2回目は1回目と同じじゃないよ。
間違いなく、1回目を通過した、違うあなただよ。
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